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映画に

見たものについての覚書 印象をピンで留め置くように

ドント・ブリーズ(2016/アメリカ)フェデ・アルバレス

洋画(アメリカ映画)

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アメリカ郊外の、廃墟同然の住宅街の一角の、しがない一戸建て家屋が、しかし立派にスリラーの舞台になる。そうなりうるのは、一戸建て家屋の中の空間をしっかり空間として隔てて際立たせるからで、あとはその一戸建て家屋の主を“怪物”に仕立てるにちょっとしたヒネリをくわえて設定すれば、スリラーの御膳立てはそろうことになる。

 

元軍人の盲人、というだけでは、たいした設定ではないようでもあるが、しかしそいつを暗闇に落ちた家屋の中で、盲人独特の周囲を気配で探るような仕草をちらつかせつつ歩かせると、途端に何かしら“怪物”じみて見えてくるのは、確かに演出の仕事ではある。またたいした設定でないようでいて、そのじつ「元軍人」という一言プロフィールがこれほど効果的に幅を利かすのも妙と言えば妙で、暗闇の中でむきだされる白眼がそれをイメージ的に“怪物”に仕立てる一役を担い、その設定の妙を補完する。冒頭に於いては、その“怪物”を画面にはじめて登場させるに家屋全体を透過するなめあげる様なキャメラワークを敢行し、如何にもそんな家屋の主たる人物の“怪物”ぶりを暗に印象づけもする(『パニック・ルーム』を思い出すが、ここでは演出的な必然をともなう)。つまりは、設定と演出がはじめから確固たるスリラー映画としてのモチーフをとらまえてそこに向けて構成されている。

 

アメリカ郊外の、廃墟同然の住宅街。ちょっと前までは映画の中にしかなかったような場景が、既にアメリカ社会の日常と化しているのかも知れず。元軍人の癒えない瑕疵、事故・事件をめぐる貧富の格差。押しこめられた地下室の闇は、そのままその社会の闇にも通じてしまっているかの如くそこに潜在する。