映画に

見たものについての覚書 印象をピンで留め置くように

ダンケルク(2017/イギリス=アメリカ=フランス=オランダ/クリストファー・ノーラン)

画面に水平線が広がる。そしてその水平線はそのまま映画の画面の基本的な水平軸ともなる。そしてその水平軸が、ときに戦闘機の機体、ときに艦船の船体に固定された画面の中で、左に傾き、右に傾き、つまり動転する。 本来なら直立する人間にとって世界の安定…

散歩する侵略者(2017/日本/黒沢清)

「概念」を「奪う」。まずこの大前提からしてあまりに抽象的ではある。抽象的であるが故に、つまりは「画」になりにくく、結果映画は抽象そのものとしての言葉=セリフのやりとりにこそ、依存することになる。 たとえば「家族」、「所有」、「自由」、「仕事…

FAKE<ディレクターズ・カット版>(2016/日本/森達也)

猫が頻りに画面に姿を見せる。誰でも気がつくが、しかし何故猫なのか。むろん「猫」であることに殊更意義や意味が認められるわけでもない。それは意義とか意味とかいう尤もらしい判然とした観念とは一見して無縁で、周縁的、付随的な細部に過ぎない。だがだ…

最近見た映画(その10)

◎『突然炎のごとく』(1962/フランス/フランソワ・トリュフォー) 音が、声が、アフレコなのだろうか。少なくとも同録ではない。同録ではないが故に、その音も声も、むしろ映画にサイレント映画的な肌合をかもし出す。人物は唐突にアクションを起こす。あ…

人生タクシー(2015/イラン/ジャファル・パナヒ)

キアロスタミの『10話』を思い出さずにはいられないことになるが、『10話』は言わば奇跡的・天才的に映画になさしめられた映画であって、この映画はそんな奇跡や天才を再現できるなどと不遜で怠惰な発想ははじめからしていない。むしろこれはこれで、何…

家族の灯り(2012/ポルトガル=フランス/マノエル・ド・オリヴェイラ)

その映画の中の空間は、書割じみた風にのっぺりと平面的に映し出され、それはファーストショットからして全くそうなのであって、そんな判り易い奥行きを一見欠いたその映画の中の空間は、やはりなぜかしらサイレント期の映画を想起させる。 その映画のほとん…

最近見た映画(その09)

△『シアター・プノンペン』(2014/カンボジア/クォーリーカー・ソト) ポル・ポト政権下に弾圧されて撮影中断を余儀なくされたという映画(フィルム)を巡って30年後の現在に於いて演じられる物語。 映画自体は稚拙かも知れないが、それでも最後のタイトル…

冬冬の夏休み(1984/台湾)ホウ・シャオシェン

田舎の家屋。田舎の家屋の窓や出入口がことごとく開け放たれてあるのは、これが夏の映画だからなのではなく、むしろ昼日中の風と光の映画だからこそなのではあるまいか。それは同じことのようでいて、しかし夜の場面がほとんど描かれないことに於いて異なっ…

最近見た映画(その08)

〇『キングコング 髑髏島の巨神』(2016/アメリカ/ジョーダン=ボート・ロバーツ) 細かいことを論えば、シーン毎の接続が粗雑。あるいはシーン毎を貫いていくはずのプロットに牽引力がないので、全体として展開が弛緩する。それをキングコングやドヤ顔俳…

最近見た映画(その07)

△『ゆずの葉ゆれて』(2016/日本/神園浩司) 児童文学の映画化らしい。見るべきものがない。「ゆずの葉ゆれて」という題名なのに、肝心のゆずの葉を風にゆらすことすらしない。ドローン撮影によるものだろう空撮があるが安易に用いたものに見える。 〇『夜…

最近見た映画(その06)

◎『おとぎ話みたい』(2013/日本/山戸結希) 一本の映画自体がひとつのからだなのだとしたら、この映画はそのからだの爪先の先までめいっぱいにとぎ澄まして踊りを踊りつらぬいているようなもの、かも知れず。ミュージカル映画がミュージカル映画足り得る…

ゴースト・イン・ザ・シェル(2017/アメリカ)ルパート・サンダース

役者の肉体、あるいは肉体の役者。つまるところそれこそが「アニメ」ならぬ「映画」のなけなしの強味なのかも知れず。 スカヨハ演じるところの「ミラ」こと少佐は、いきめぐる人びとからことあるごとに「美しい」と評されるが、「美しい」のはじつのところ生…

クリミナル 2人の記憶を持つ男(2015/イギリス=アメリカ)アリエル・ブロメン

映画の中に世界の細部を切り取る“描写”。 冒頭に展開される銃撃戦。無政府主義者の徒党による襲撃は、第一撃でタクシーの運転手の頭蓋を撃ち抜き、つづいてタクシーのタイヤを撃ち抜きパンクさせる。むろん、移動を封じる為の襲撃の基本的な段取だ。対抗する…

アンジェリカの微笑み(2010/スペイン=フランス=ブラジル=ポルトガル)マノエル・ド・オリヴェイラ

大河の河畔、夜半の街並。その景観のロングショット。それだけでもはや映画の画面。雨降り頻る石畳の路上をヘッドライトを輝かせる車が滑るように走りこんでくる。それもやはり映画の画面。何よりも音。そこで雨が雨として映画の画面を際立たせるのは、まぎ…

最近見た映画(その05)

◎『幸福は日々の中に。』(2016/日本/茂木綾子、ヴェルナー・ペンツェル) 貌の豊かさ。と言って殊更その心理的な表情に執着する映画ではむしろない。ただ皆が皆、活きている。そのことが、その貌の豊かさの印象として帰結する。アニミズム的な、うごきま…

最近見た映画(その04)

*「ロマンポルノ・リブート」5本* 『ジムノペディに乱れる』(2016/日本/行定勲) なんでジムノペディなのか。なんでこの男なのか。なんでだいたいロマンポルノなのか。わからない。相変わらず審美的に耽美的なソフトフォーカス。ロマンポルノとして映…

SHARING(2014/日本)篠崎誠

山田キヌヲという主演女優の寝ているのか覚めているのかわからないような表情が第一印象。寝ているのか覚めているのかわからないのは、しかし映画自体の筋書がそうさせているのやも知れず。寝ては覚め、覚めては寝て、どこまでが夢だか現だかも判然とせぬな…

太陽の王子ホルスの大冒険(1968/日本)高畑勲

画面を彩るアイデア、その豊かさ。たとえば冒頭のホルスと狼達との戦闘シーンからして、あの手斧の「縄」。そのアイデアの出色なこと。単なる剣でも斧でもなく、自在なリーチを展開できる「縄」の結びつけられた手斧というアイデアあらばこそ、そのシーンか…

最近見た映画(その03)

△『島々清しゃ』(2016/日本/新藤風) 子供達や素人の老人が主要なキャストで登場するが、そうすると脚本の脆弱さがもろに出てしまう。絞りどころ、落としどころが曖昧なままの構成で印象も曖昧に終わる。人物の語るセリフが地に足着かない(体に具わって…

沈黙 ーサイレンスー(2016/アメリカ)マーティン・スコセッシ

映画には何があるか。何もない。映画は現実の事物と向き合うところからしか生まれない。ということは、現実の事物と向き合うことなくして映画そのものにはじつは何もない。なんらの被写体もなき無の時空に映画は実存しえない。映画は全くの「闇」を表象でき…

革命前夜(1964/イタリア)ベルナルド・ベルトルッチ

貌。少女的なコケティッシュを垣間見せる、けれども確実に齢の陰が刻まれつつある、その貌の映画。だからほとんどその貌にだけ画面は注視しつづけて映画は終わる。その貌があらわにするあの表情この表情は如何にも媚態だが、しかし自らを投げかけるべき確た…

無垢の祈り(2015/日本)亀井亨

9歳の、文字通りの「少女」、福田美姫の映画。両のまなこの真白さ、声のあまりのあどけなさ。 闇夜に浮かびあがる、ぼんやりと照明された工場群のシルエットが、まるでどこかの架空の近未来都市のようにそこに映し出される。少女が自転車で走り回る街並みは…

この世界の片隅に(2016/日本)片渕須直

壁にもたれたヒロインが首を傾げたショットから、画面がぐらりと傾いで水色の空へとゆらめいていくさまを、どう表現したらいいのか。漫画で表現すれば、四角い紙面にコマを割ってそれにそった読者の視点の移動で疑似的に同様の効果を産み出そうとするのかも…

最近見た映画(その02)

△『暴力教室』(1976/日本/岡本明久) 松田優作主演作。時代劇から任侠劇へと至る定型を学園劇に移植。なのでラストは討ち入り、殴り込み。主演なのだろう松田優作が三白眼をぎろつかせて凄みをきかせる演技はブルース・リー由来なのか。ほとんど冗談みた…

マッドボンバー(1973/アメリカ)バート・I・ゴードン

爆弾魔チャック・コナーズ、刑事ヴィンセント・エドワーズ、強姦魔ネヴィル・ブランド。 この三人のおやじどもが、その独特に型にはまったキャラクターで映画を支える。とくにチャック・コナーズは、2メートル超もあるらしいその体躯をもてあます様に身を屈…

最近見た映画(その01)

◯『映画 「聲の形」』(2016/日本/山田尚子) ミュージックビデオ風なスタート、音に(世界に)無邪気に心開いているかつての少年。水の流れの中に身を踊らせる、いつでもそこに水の流れがある、花火の音。行為の意図されざる反復は、その意味合いの対称性…

灼熱(2015/クロアチア=スロベニア=セルビア)ダリボル・マタニッチ

灼熱とはなんのことか。あるいはそれは画面に刻印された陽光のことか。しかし灼熱と言うにはそれは多分に翳りを帯びて、けっして溌剌とした輝きを見せつけたりはしない。 同じ男女の役者が、1991年、2001年、2011年と、十年ごとに時代が区切られた挿話の中で…

ピートと秘密の友達(2016/アメリカ)デヴィッド・ロウリー

空撮から始まる。なぜなら、それは空飛ぶ獣の物語だから。そんな律義さに、既に映画の良心がにじみでている。空撮は映画の中で幾度となく敢行されるが、それらが如何にも空飛ぶ獣から見おろされたようなやわらかな軌道を飛翔しているように見えるのは、たぶ…

君の名は。(2016/日本)新海誠

物語はあらかじめ入れ替わりが成立してしまったところから始まる。入れ替わりに至る前段としての日常的な描写はかえりみられず、むしろ入れ替わりをこそ物語の前提として日常的な描写を始める。奇跡はすでに起こっている。あとはひたすら帳尻を合わせていく…

ドント・ブリーズ(2016/アメリカ)フェデ・アルバレス

アメリカ郊外の、廃墟同然の住宅街の一角の、しがない一戸建て家屋が、しかし立派にスリラーの舞台になる。そうなりうるのは、一戸建て家屋の中の空間をしっかり空間として隔てて際立たせるからで、あとはその一戸建て家屋の主を“怪物”に仕立てるにちょっと…